■クジラと日本人は切ってもきれない間柄
古くからクジラは、日本人の貴重な食材だった。戦後から高度経済成長期には、経済的で栄養価の高いタンパク源として、庶民の食卓に欠かせないメニューであった。西欧人のように、鯨油のみを目的としたもったいない捕獲ではなく、日本人は古くから、この海の巨獣に感謝しつつ、肉からヒゲまですべてを利用しくしてきた鯨文化を持っている。捕鯨の行われている沿岸では昔から、「一頭捕れば七浦が盛える」と言われたほど、海の恵みとして大切にしてきたのだ。そんな、日本人とは切ってもきれない「食文化」が、西欧人の価値観による捕獲禁止によって、今や“幻の稀少食材”と化してしまった。

1983年から始まったIWC(国際捕鯨委員会)により、捕鯨規制は強化され、94年にはサンクチュアリ(鯨の聖域)採択が加わり、南氷洋の鯨は一頭も捕ることが許されなくなった。庶民の食卓から消えたのはもちろん、今や専門店でさえ鯨肉は極めて入手困難な食品になっている。

 
 

  ■全国のクジラ7割を食した大阪人
今、全国の料理屋で供されているクジラ料理というと、さらしクジラ、ベーコン、尾の身や赤身の刺身、ステーキなどが一般的ではないだろうか。しかし大阪には、おでんに煮込むコロやサエズリをはじめとする、ディープな鯨文化がいまもしっかりと根付いている。その代表がハリハリ鍋だ。 ちなみに東京でも、関東大震災後にハリハリ鍋の専門店が何軒か登場したらしいが、客がつかずにあえなく消えていったという。大阪と東京の庶民の食文化は、かように違いがある。豚肉を入れたり、鴨肉を使ったりする亜流のハリハリ鍋もよく目にするが、大阪人に言わせればそれは邪道、あきまへん。ハリハリといえば、浪花ではクジラしかない

 

  鯨肉流通が自由だった時代には、赤身やコロ、さえずりを含め、日本全国の7割を大阪が消費していたといわれている。まさしく“クジラ食い”の地域なのだ。もともとの出発点は、安くておいしいものが好きな大阪商人が考案した、カジュアルな冬の家庭料理だったらしいが、それが捕鯨禁止条例のおかげで、いまでは庶民の口には、なかなか入らないグルメ鍋になっている。そんな、肩身の狭い時代にも、大阪のクジラ文化をきっちり今に伝えているのが、ハリハリ鍋の名店「徳家」だ。  
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