とっぷりと日が暮れて、寒風吹きすさぶ街を今日も家路に急ぐ。冷たい頬とかじかむ手。カラダも芯から冷えてくる。
ああ、ぬくもりがほしい。愛がほしい。
おっと、おでんの提灯が見える。
しょうがない。
今日もちょっといっぱいヤルか。
テナわけで、今日もおでん屋は、愛とぬくもりに飢えた人々でいっぱいである。
はじめてのおでん屋にいくと、まず大根やこんにゃくなどを注文すると良い。煮込み時間が必要な具であるから、だしがほど良くしみていて、店の味付けがよくわかる。
おでんの善し悪しは、だしで決まる。いろいろな具のエキスが出て渾然一体となり、それはそれは深い味わいとなるのだ。
ベースとなるだしのとりかたにも、お店によっていろいろな企業秘密があるという。 おでんは、具もさることながら、やっぱりだしにつきる。
だしの旨みがあればこその具、というものだ。
おいしいおでんに出会うと、おでんの皿に少し盛られただしを、ついついすすってしまいたくなる。玉子などは、形がつぶれてだしにまざった黄身を、だしと共に味わう。
これが最高なのである。
ふとみるとお皿には、一滴のだしも残っていない。
よく見かける姿だが、ちょっと待ってね。これは浪花のおでん道では、マナー違反。
ほら、お店のおっちゃんがにらんでいませんか。
お皿のだしは、出されるたびに毎回飲んではいけません。だって、一人で5皿注文するとして、10人いれば50皿。それが5回転もすれば、250皿のおだしがなくなるのだ。だしのつぎ足しはするにしても、みんながみんなだしを飲み干せば、またたくまに、お店のちょうどいい頃合いのだしがなくなってしまう。
だから、おでんのだしは飲みたいが、具を注文するごとに飲んではいけない。ラストオーダーの時、エンディングを飾る好みの具を食べながら、最後の最後におだしを飲み干す。 そして「あーおいしかった。ごちそうさま!」というのである。
これが浪花のおでんの正しいマナー。
みなさん、だしばかり飲んでいませんか。だしはお店の財産です。
最後に一度だけ、ふかーく味わうようにいただいてください。
これを、おでん界では「だし惜しみ」という。
コレ、ホンマ?

◇追記◇
宵越しのゼニは持たない江戸っ子気質はおでん屋にも生きていたようで、江戸時代の煮売り屋は、閉店とともに残っただしをまとめて大きな樽に入れ、ぶんぶんと反動をつけて大川へと投げ捨てていたとか。そこから相撲の決まり手のひとつ、だし投げが生まれた、という話は全部ウソですが、最近では、浪花のおでん屋さんにも、似たようなお店が増えてきて、残っただしは閉店と同時に、きれいさっぱり捨ててしまうお店もあります。だから、今回のお話が、浪花のおでん屋さんすべてにあてはまる、というわけではありません。しかし、それでも、戦後このかたずっと同じだしで煮き続けているおでん屋や、軽量化を追求している屋台なんかでは、だしばっかり飲む客は、必ずおこられます。なんで知ってんねん…て?いや、それは…あんまり、追求せんといてください。
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