東京から友人がやって来た。「よし、今日は奮発して、すき焼きにしよう!」なんてことになって、友人と二人、鍋をつつき出す。
すき焼きは、醤油と砂糖のあんばいが肝心だ。味の好みもあるし、よし、ここはひとつ、友人にも味見をしてもらおう。
「味はどう、辛ない?」と私。
「辛い?」と怪訝な表情の友人。
「うん、辛かったら薄めるし、言うて」
「辛くはないけど、しょっぱいな」
「しょっぱいって、酸っぱいの?」
「違う違う、塩辛いってこと」
「そやから、さっきから辛い?って聞いてるやん」
「だから、しょっぱいって言ってんじゃん」  ……………○△×



長いマクラでございましたが、こんなふうな経験、みなさん、ないですか。
そう、関東の人たちは味見の際、"塩辛い"ということを「しょっぱい」とか「しょっからい」あるいは「味が濃い」といった言い方をします。これが大阪をはじめとする関西圏では、ひとこと「辛い」と表現します。関東の人たちは、この大阪弁の「辛い」を耳にすると、「ピリ辛い」という意味にとらえることが多いのではないでしょうか。
確かに、ピリ辛味のときにも大阪人は、「辛ッ!」と言います。意味の違いをどこで聞き分けているのかというと、これはスピードが違うのです。音楽的に例えると、塩辛いの「辛い」がアダージョ(=ゆるやかに)だとしたら、ピリ辛の「辛ッ!」はアレグロ(=速い)ぐらいのテンポで発せられます。
また、大阪人の場合、サービス精神が旺盛なので、ピリ辛味を表現するときには、たいてい何か接頭語などが添えられます。「うわっ、辛ッ!」とか「メッチャ辛い!」「激辛!」「マジで辛い」…などなど、おまけに顔をしかめるというWサービスも付くので、たいていはわかるわけです。



一方、関東の人たちが「しょっぱい」と言うと、大阪人はとっさに「酸っぱい」という言葉を連想してしまうことが多いようです。「このみそ汁、しょっぱいよ」なんていう声を聞くと、「え?なんで、みそ汁が酸っぱいんや?傷んでへんか?お腹こわさんか?」といったあらぬ心配へと発展するわけです。



資料によると「しょっぱい」(塩っぱい)という言葉は、「しおはゆい」が転じた言葉で、漢字では「鹹い」と書きます。「鹹い」は「辛い」の古語であり、「鹹」は「塩」と同義の意味を持っています。
つまり、「しょっぱい」も「辛い」も、根っこは同じであるわけです。いつどこで、どんな理由で東と西に泣き別れになったのか、興味深いところです。
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