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「人は、贅を尽くしたグルメな食シーンよりも、ごくありふれた朝食シーンに食欲を刺激される」、てなことを言ったのは、007シリーズでおなじみの作家、イアン・フレミング。確かに、たっぷりとバターを塗った厚切りトーストは、朝食の華。外はカリッ、中はふんわりという食感は、厚めに切った食パンでしか味わえない醍醐味ですね。ところが、この「食パンは厚切りが美味しい!」という嗜好も、どうやら関西ローカルの常識であって、ジャパンスタンダードではないらしいのです。
製パン業界の常識でいうと、関東では、厚切りパンは「非主流派」というのが実態です。東京から関西にやって来た人の中には、「関西には食パンの8枚切りがない」と嘆く方がよくいますが、確かに関西人は8枚切りの食パンは、朝のトーストとしてはほとんど食べません。「そんな薄いの、3枚ぐらい食べんと、食った気ぃせんがなー」てなもんで、普通は6枚切り、もっと厚いのが好きな人は5枚切りを買うのが西のスタンダード。それを裏付ける、データがあります。
山崎製パンの本年1月から8月までの販売データによると、静岡を境にして国内市場を東西に分けると、西日本は圧倒的に厚切りが多いことがわかります。厚切りの5枚切りは、西では38.9%もあるのに対して、東は0.3%とほとんど皆無。一方の薄切りは、圧倒的に東です。西では、8枚切りがわずか1.4%しかないのに、東ではなんと25.8%にのぼります。この比率は、他の大手製パンメーカーのデータでもだいたい似たような状況です。関西人は、お厚いのがお好きなんですね。でも、いったいどうしてなんでしょうか。
コテコテのイメージが強い関西なので、欧米イメージのパン食とは縁遠いように思われがちですが、意外や、もともと関西人は大のパン好きなのです。総務省の家計簿調査によると、一世帯当たりの年間購入量は食パン、その他のパン(菓子パンなど)とも神戸がトップで二位は京都。三位は鳥取ですが、四位大津、五位奈良、さらに和歌山九位、大阪十七位と、関西の都道府県が上位を占めています。なるほどパン好きはわかるとしても、ではなぜ関西人は厚切りを好むのでしょうか。
「根拠なき独断」とも言われかねないのですが、考察を展開してみましょう。
その1「厚切りのもっちりとした食感が、関西人好み」
関西人は、もっちりとした食感が好きです。うどんやモチ、お好み焼き好きは、それをあらわしています。ですから、食パンもやはり、薄切りのカリカリした食感より、厚切りの食感が好まれると考えるのが自然です。それが証拠に最近、「もっちり、しっとり」した食パンが関西を中心にヒットしています。「超熟」(敷島製パン)、「超芳醇」(山崎製パン)、「本仕込」(フジパン)、「熟彩」(第一屋製パン)などの製品で、一部の商品では、湯で小麦粉を練る製法で粘り気を出し、もっちりとした食感を生み出しています。こうしたブームの火付け役こそ、関西だったとか。逆に関東は、塩せんべいに代表されるような、カタイ食品がお好きなようです。だから食パンも、関東では英米風のしっかり焼いたものが好まれ、粉モングルメ好きな関西では、もっちり食パンが好まれているのではないでしょうか。
その2「ウマイもんのためなら金をかける関西人」
粉モングルメの王様お好み焼きは、関東では小腹が空いたときのサイドメニューという位置づけで、主食にはなりません。でも関西では、お好み焼きを晩ご飯がわりにする家庭はかなりの割合にのぼります。つまり、粉モンを立派な主食として尊敬しているわけです。だから、食パンといえど、美味しさを追求することはやぶさかではありません。逆に関東は、朝の食パンは、必要充分な要件さえ満たしていればオッケーという風潮が強いのではないでしょうか。その証拠に関東では、食パンの通常品と高額品の売れ具合は、ほぼ拮抗しているのに対し、関西では、高額商品の方が2.5倍もよく売れているのだとか。多少余分にお金を払っても、美味しい方が良いという志向が、西の常識のようです。
その3「5枚切り・6枚切りはパン屋さんの販促策」
才覚で勝負する浪花の商人根性が、パン屋さんにも脈々と息づいていたのではないでしょうか。「厚切りにしたら、はよ売れるで…」と気づいたパン屋さんがいて、6枚切りや5枚切りを考案した、と推理するのはどうでしょう。なぜかといえば、4人家族で8枚切りだと2日間は持ちますが、6枚切りや5枚切りだと、2日目は新たに買う必要が出てきます。よく売れる計算です。
その4「アメリカ化されないラテン系大阪のパワー」
日本の製パン業界で使う食パンカッターの元祖は、アメリカ製の8枚切りだったそうです。それを、関西人好みの厚切りにしていったのは、大阪の製パンメーカーでした。もともとあったルールに縛られることなく、自由な発想で自分たち好みにカスタマイズしてしまうのは、大阪人の得意とするところ。従順に、アメリカ式食パンの伝統を守っている東に対して、西は食パンひとつとっても、勝手きままを通しているということかも。
というわけで今回は食パンをお題に、「なぜ西は、お厚いのがお好きなのか」を考察してみました。
でも、みなさん。朝のパン食もさることながら、あったかーいご飯にみそ汁、アジの干物に、卵焼きと海苔、最後に緑茶で一服という、純日本式の和定食もいいと思いませんか。
だって、聖書にもあります。「ひとはパンのみにて生きるにあらず」ってね。 |
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